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福岡高等裁判所 昭和60年(ラ)15号 決定

抗告人 株式会社オリエントフアイナンス

右代表者代表取締役 阿部喜夫

右代理人弁護士 坂口孝治

山本紀夫

山本智子

主文

原決定を取り消す。

本件を大分地方裁判所中津支部に差し戻す。

理由

一  抗告代理人は、主文と同旨の裁判を求めた。その抗告の理由は別紙のとおりである。

二  そこで審案するに、本件債権差押命令申立書によると、抗告人は、債務者である光本義政(以下本件債務者という。)に対するいわゆる事前求償権の行使として、同人(及びほか二名)との間に作成された求償債務履行契約公正証書の執行力ある正本に基づき、本件強制執行の申立てをしたものであることが明らかである。

ところで、公正証書が、民事執行法二二条五号に規定する執行証書として債務名義となり得るためには、その請求が、金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求として記載されていることを要する。

これを本件についてみるに、記録によると、本件公正証書には、

(一)  抗告人と金田光司は、昭和五六年四月一五日、右金田が朝日生命保険相互会社(以下朝日生命という。)から金員を借り受け、抗告人にその保証を委託したことにより、抗告人に対して負担することあるべき求償債務の弁済につき、本契約を締結すること、右借受金は金三〇〇万円であり、右借受元本に対する最終弁済期までの利息は金一二八万六二五〇円であること、右元利金計四二八万六二五〇円(弐千五拾円とあるのは弐百五拾円の誤記であることが明白である。)の弁済方法は、昭和五六年五月から六〇回にわたり毎月二七日かぎり金七万一四〇〇円(ただし第一回は金七万三六五〇円)ずつの分割弁済であること(以上第一条)

(二)  金田光司が朝日生命に対する右分割弁済を怠つたときなどの場合は、抗告人は、朝日生命に代位弁済する前であつても、右金田又はその連帯保証人に対して、事前に残存金額全額について求償権を行使することができること(第三条)

(三)  本件債務者及び金田武雄は、金田光司の抗告人に対する本契約上の一切の債務を保証し、金田光司と連帯して債務弁済の責任を負うこと(第四条)等の記載がなされていること(なお、第二条にはいわゆる事後求償権並びにこれに対する遅延損害金についての約定が記載されている。)が認められるが、右本件公正証書の記載によれば、抗告人が金田光司及びその保証人である本件債務者らに対し行使し得べき事前求償権の額は、第一条記載の借受元利金の額であることが明らかであり、右元利金の額は記載上明確であるから、本件公正証書は、少なくとも事前求償権に関するかぎり、民事執行法二二条五号にいう「一定の額」の記載があるものとして、執行証書としての要件に欠けるところはないというべきである。(なお、主債務者の弁済などにより、現実に存在する事前求償債権の額が、公正証書に記載された額より減少することがあるのは、公正証書上一定の額の記載があるか否かの問題とはかかわりがないことはいうまでもない。)

三  それゆえ、原審が、本件公正証書は一定の額の記載要件を欠くとして、本件債権差押命令の申立てを却下したのは失当であるから、原決定を取り消して本件を原裁判所に差し戻す

(裁判長裁判官 蓑田速夫 裁判官 柴田和夫 亀川清長)

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